友だちの香水を、最初は「ちょっときついな」と感じたことがある。友だちにとってはお気に入りの香りなのに、わたしの鼻には強く感じた。同じ香りなのに、どうしてこんなに感じ方が違うんだろう?
「好みの問題でしょ」で片づけがちだけど、ちゃんと理由がある。大きく分けると、遺伝・経験・文化の3つ。この記事では、それぞれを研究と合わせて見ていくね。

先に言っておくと、そもそもみんなが同じ香りを同じように感じているわけじゃない。感じ方の段階で、もう人によって違うんだよね。
理由1:遺伝|鼻のセンサーが人によって違う

においを感じるセンサーは約400種類
人間の鼻の奥には、においの分子をキャッチする「嗅覚受容体」というセンサーがある。その種類は約400。ひとつのにおいは複数のセンサーの組み合わせで認識されていて、その組み合わせのパターンで「これはバラ」「これはコーヒー」と判断してる。
このセンサーを作る遺伝子には個人差がとても大きい。2人を比べると、受容体のかなりの割合で働き方が違うという推計もあるほど。同じ香水を嗅いでいても、鼻の中で起きていることは人によって少しずつ違う。
「同じ成分が、ある人にはバニラ、ある人には汗」
分かりやすいのが、アンドロステノンという成分。2007年に科学誌Natureに載った研究では、特定の受容体遺伝子(OR7D4)のタイプによって、この成分を「汗っぽくて不快」と感じる人と、「ほとんどにおわない」「甘い・バニラっぽい」と感じる人に分かれることが示された(ケラーほか, 2007)。
もうひとつ有名なのがパクチー。パクチーが「石けんの味がする」と感じる人がいるのは、嗅覚受容体遺伝子の近くにある違いと関係していることが、大規模な遺伝子調査で報告されている(エリクソンほか, 2012)。

「パクチー嫌いはわがまま」じゃなくて、本当に違う味や香りとして感じているのかもしれない。香水も同じで、苦手な人を責めるのはちょっと違うよね。
理由2:経験|香りの好き嫌いは「後から」作られる
赤ちゃんの好みは、お腹の中から始まっている
フランスの研究では、妊娠後期にアニス(甘いスパイスの香り)を含む食べ物をとっていたお母さんから生まれた赤ちゃんは、生まれてすぐにアニスの香りに好意的な反応を示した。一方、とっていなかったお母さんの赤ちゃんは、顔をしかめるなど嫌がる反応が多かった(シャールほか, 2000)。
香りの好みは、生まれる前からもう経験で作られ始めているみたい。
「嗅いだときの気持ち」が香りの評価になる
香りの好き嫌いには、生まれつき決まっている部分よりも、学習で決まる部分が大きいと考えられてる。ある香りを「楽しいとき」に嗅げば好きになりやすく、「つらいとき」に嗅げば苦手になりやすい。
たとえば、病院で嗅いだ消毒液のにおいが苦手、という人は多い。消毒液そのものより、「病院=不安」という気持ちとセットで覚えているからなんだよね。香りと感情がセットで記憶される話は、コーヒーの香りの記事でも書いてるよ。

何度も嗅ぐと、だんだん好きになる
心理学には「単純接触効果」という考え方がある。何度も接するうちに、だんだん好感を持つようになる現象。香りでも、最初は「ちょっと変わってる」と思った香りが、何度か嗅ぐうちに好きになることがある。

香水を最初のひと吹きだけで判断しないほうがいいのはこのため。ウッディやスパイス系みたいなクセのある香りは、何日か試すと印象が変わることも多いよ。
理由3:文化|国や地域で「いい香り」が違う
同じ香りが、ある国ではお菓子、ある国では薬
有名なのが、ウィンターグリーン(サロメチールのようなスーッとする香り)。アメリカではガムやキャンディーの香りとしてなじみがあって好まれやすい一方、イギリスなどでは湿布や塗り薬を連想させるため、評価が低くなりやすいと言われている。
日本でも、ヒノキやゆず、お線香の香りに「落ち着く」と感じる人が多いのは、生活の中でそれらに触れてきたから。海外の人にとっては、同じ香りが「知らない、ちょっと不思議な香り」に感じられることもある。
香水の好まれ方にも文化差がある
日本では、強く香るより「近づいたときにふわっと香る」くらいが好まれやすい傾向がある。石けんやシャンプーのような清潔感のある香りが人気なのも、生活の中の「いい香り=清潔」という感覚とつながっているのかもしれない。

香りの好みの違いを知ったうえでできること
香水は「自分の鼻」で決める
口コミや人気ランキングは参考にはなるけど、香りの感じ方自体が人によって違う以上、「みんなが好き=自分も好き」とは限らない。最後は自分の鼻で確かめるしかない。
ムエット(試香紙)で嗅ぐだけでなく、肌につけて数時間後の香りまで確かめるのがおすすめ。トップノートの印象と、数時間後に残る香りがかなり違うこともあるから。
人と会う場面では「控えめ」を基本にする
自分にとって最高の香りが、隣の人にとっては苦手な香りかもしれない。オフィス、電車、食事の場では、つける量を少なめにして、つける場所も手首より腰や足首など、鼻から遠いところにすると角が立ちにくい。
苦手な香りがあっても、気にしすぎない
人気の香りが苦手でも、鼻がおかしいわけじゃない。遺伝や経験の違いで、そう感じているだけ。苦手な香りが分かっていれば避けて選べるので、むしろ香水選びのヒントになるよ。

このブログの比較記事で、「好き・嫌い」より先に「何に似てるか」「どの香料が共通しているか」を書いているのもこのため。好き嫌いの理由が香料の名前で見えてくると、次の一本がかなり選びやすくなる。
よくある質問
同じ香水なのに、友だちがつけると違う香りに感じるのはなぜ?
理由はいくつか考えられる。ひとつは肌の状態。乾燥肌だと香りが飛びやすく、皮脂が多いと香りが肌にとどまりやすい。体温や、その日使っているボディソープ・柔軟剤の香りと混ざることでも印象は変わる。
もうひとつは、嗅ぐ側の問題。自分の香りは自分の鼻が慣れてしまって弱く感じやすい(嗅覚順応)。友だちの香りは「新しいにおい」として届くから、同じ香水でも強く、はっきり感じやすい。
年齢で香りの好みは変わる?
変わることは多い。子どもの頃は甘い香りを好みやすく、大人になるにつれてウッディやスパイスのような複雑な香りを「いい」と感じる人が増える傾向がある。経験が増えるほど、香りに結びつく記憶も増えるから、好みが広がっていくのは自然なことだと思う。
また、年齢とともに嗅覚そのものが少しずつ衰えていくことも分かっている。昔より香水を強くつけてしまう、という人は、においに慣れているだけでなく、感じ方が変わってきている可能性もあるので、量は意識して控えめにしておくのがおすすめ。
男女で香りの好みは違う?
平均すると傾向の差はあるけど、個人差のほうがずっと大きい。「男性向け」「女性向け」という分け方はマーケティング上の区別で、香りそのものに性別はない。ユニセックスの香水が増えているのもそのため。気になった香りは、表示を気にせず試してみて。
まとめ
- 香りの好みの違いは「遺伝・経験・文化」の3つで説明できる
- 嗅覚センサーの遺伝子には個人差が大きく、同じ成分でも感じ方が変わる
- 好き嫌いの多くは、嗅いだときの気持ちや繰り返しの経験から作られる
- 国や地域によって、同じ香りでも連想するものが違う
- 香水は人の評価より自分の鼻で選び、人前では控えめにつけるのが基本
参考文献
- ケラーほか(2007)「ヒトの嗅覚受容体の遺伝的変異がにおいの感じ方を変える」『Nature』449巻, 468–472頁 論文ページを見る
- エリクソンほか(2012)「嗅覚受容体遺伝子の近くにある遺伝的変異がパクチーの好みに影響する」『Flavour』1巻, 22 論文ページを見る
- シャールほか(2000)「胎児は妊娠中の母親の食事からにおいを学ぶ」『Chemical Senses』25巻6号, 729–737頁 論文ページを見る
【最後に】この記事を書いた人


「この香り、他の香水に似てるかも?」って思ったことない?
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